Q設 1. 高力ボルトの径に対して板厚の制限があるか。
日本建築学会「鋼構造設計規準」によれば、
「ボルトで締め付ける板の総厚は、径の5倍以下とする。やむをえず5 倍をこえる場合は、そのこえた長さ6㎜ごとにボルトの数を4 %ずつ増さなければならない。超過分が6㎜未満の場合は数を増す必要はないが、6㎜以上の場合は最小1本増しとする。高カボルトの場合は、本項の制限を受けない。」とされています。
従って、高力ボルトではボルト径と板厚の関係を考慮する必要はないことになります
日本建築学会「鋼構造設計規準」によれば、
「ボルトで締め付ける板の総厚は、径の5倍以下とする。やむをえず5 倍をこえる場合は、そのこえた長さ6㎜ごとにボルトの数を4 %ずつ増さなければならない。超過分が6㎜未満の場合は数を増す必要はないが、6㎜以上の場合は最小1本増しとする。高カボルトの場合は、本項の制限を受けない。」とされています。
従って、高力ボルトではボルト径と板厚の関係を考慮する必要はないことになります
鋼構造物をボルトによって接合する場合は、高力ボルト及びボルトによる接合が認められています。ボルト接合による場合は,建築基準法施行令により、戻り止めの処置を施すことが義務付けられていますが、高力ボルトにはこの規定がありません。
ボルトのゆるみには2つのタイプがあります。1 つはナットがゆるみ回転をしないまま張力(軸力)が減少する現象で、これをリラクセーションと呼びます。これによる張力(軸力)の低下分は考慮されて、接合部の許容値が設定されており、通常の使い方をしていれば問題ありません。
もう1つはナットが振動や接合面のずれのくり返しで、ナットがゆるみ回転を生じるものですが、締付け力が十分大きい場合には、この心配はありません。
従って、高力ボルトの摩擦接合による場合、通常の使用環境であれば所定の締付け張力(軸力)を与えれば高力ボルトのゆるみは考慮する必要はありません。
接合形式には、次の3つの種類があります。
(1) 摩擦接合
摩擦接合は高力ボルトで接合材を締付けた際に生じる大きな材間圧縮力によって得られる接合材間の摩擦抵抗で応力を伝達する接合法です。ボルト周辺に広く分散した材間圧縮力を介して応力伝達が行なわれるため、局部的な支圧力で応力を伝達するリべット接合などと違って応力集中も少なく、応力の流れは滑らかになります。
また、摩擦抵抗を超えた力が加わり摩擦が切れて、すべりが発生するまでは、接合材間にずれが生じないので、極めて高い剛性が確保されると共に疲れ強さも高くなります。
(2) 引張接合
応力の伝達に際して、材間圧縮力を利用している点は摩擦接合と同様ですが、引張接合は高力ボルトの軸方向に応力を伝達する接合法です。作用外力は主として高力ボルトの締付け力によって生じる材間圧縮力と打消し合う形で応力伝達が行なわれます。
そのため、引張り外力が作用したときの、ボルト張力(軸力)の付加も小さく、接合部の剛性は非常に大きくなります。
(3) 支圧接合
支圧接合は高力ボルトで接合材を締付けて得られる接合材間の摩擦抵抗とリべットや普通ボルトのようなボルト軸部のせん断抵抗および接合材の支圧力とを同時に働かせて応力を伝達する接合法です。
高力ボルトを支圧接合として採用する場合には、建築基準法による国土交通大臣の認定を受けなければなりません。
図1 摩擦接合例
図2 引張接合例 (a) Split Tee 型
図3 引張接合例 (b) End Plate 型
建築基準法施行令及び建設省告示第1795号で摩擦接合及び引張接合の許容応力が定められています。
下記の基準は建築での数値であり、橋梁については別に定められています。
1.摩擦接合
高力ボルトの軸断面に対する許容せん断応力度として0.3T0(長期、1面せん断、ボルト1 本当り)としています。またT0(基準張力)はF10T 500N/ としてい
ます。この方式より摩擦接合部の設計時の許容せん断応力度としてF10T で、150 N/ としています。
ボルト1本、摩擦面の数1の場合の許容せん断力は、M12:17.0kN、M16:30.2kN、M20:47.1kN、M22:57.0kN、M24:67.9kN、M27:85.9kN、M30:106kNとなります。
2.引張接合
高力ボルトの軸断面に対する許容引張応力度としてF10Tで310 N/ (長期、ボルト1本当り)としています。ボルト1 本当りの許容引張力は、M12:35.1kN、M16:62.3kN M 20:97.4kN、M22:118kN、M24:140kN、M27:177kN、M30:219kN となります。
引張接合における長期許容引張力は、設計ボルト張力の約60%となっています。
3.支圧接合
高力ボルトを使用した支圧接合は、建築基準法施行令等の法令では応力度等が定められていません。
従って、高力ボルトを使用した支圧接合の設計を行なう時は、国土交通大臣の認定を受けなければなりません。
許容耐力の考え方
高力ボルト接合設計施工ガイドブックによれば、
「高力ボルトの摩擦接合と隅肉溶接とを1つの継手に併用する場合、「鋼構造設計規準」では、高力ボルトの締付けを溶接に先立って行うならば、接合部の降伏(許容)耐力として両者の降伏(許容)耐力を加算できるとしている。これは主すべりを生じる以前の高力ボルト接合部の剛性と隅肉溶接の剛性が近いため累加が可能となるからであり、この点は実験的にも確かめられている。
この種の併用継手の最大耐力は、高力ボルトのすべり耐力と溶接部の最大耐力の和として計算する。これは一般的に用いられる高力ボルト接合と隅肉溶接の各接合要素耐力のバランスの範囲では、併用継手全体としての挙動を支配するのは隅肉溶接であり、隅肉溶接部全体の最大耐力時の変位量が高力ボルト接合部のすべり耐力時の変化量に対応するためである。」とされています。
なおフランジを溶接、ウェブを高力ボルト摩擦接合とするような継手は混用継手であり、併用継手とは異なるものです。
施工順序
高力ボルト接合設計施工ガイドブックによれば、
「施工順序については、先に溶接を行うと元ひずみのある板を使ったり、溶接熱によって板が曲がったりしたときに、後から高力ボルトで締付けても、接合面が密着しなかったり、十分な接触圧が得られないことが起こる可能性があるので、比較的板厚の小さい部材の多い建築構造物では、先に高力ボルトを締付ける場合のみについて累加を認めている。しかし、上記のような可能性が全く考えられない場合には、順序は関係なくなるし、また、溶接による収縮変形や熱の影響を受けないように、高力ボルトの締付けを後にしたほうが良い場合も考えられる。従って、接合部の条件によっては、実験などにより施工順序、併用効果について検討することが望ましい。」とされています。
鋼構造設計規準(日本建築学会)で中ボルトおよび高力ボルトの許容せん断応力度について表1のように規定しています。
○許容せん断力は高力ボルトの場合は軸断面で算出し、ボルトの場合はねじ部有効断面で算出する。
○○ 高力ボルトの許容せん断応力度は、摩擦接合としての許容応力度を意味し、高力ボルトが直接せん断を受ける場合は扱ってない。
即ち、ボルトは直接せん断を受ける場合の規定であり、高力ボルトは摩擦接合としての規定しかなく、基本的な違いがある。
※(注)Fは鋼材の降伏点と引張強さの70%のいずれか小さい方の値である。
すべり係数とは、高力ボルト摩擦接合において部材の摩擦面が外力により明確なすべりを起こす時の荷重(すべり荷重(P))を導入した初期ボルト張力(軸力)(N)で除した値であり、締付けボルト本数(n)と摩擦面数(m)を合わせて考えて次式により表されます。
これは、物体の摩擦面に働く摩擦力と垂直抗力の比で表される静止摩擦係数と意味合い的には同じですが、摩擦接合では摩擦係数を算定する場合、材間圧縮力としてのボルト張力(軸力)はすべり発生時のボルト張力(軸力)ではなく、ボルトに与える初期ボルト張力(軸力)を用いて算定するため、厳密な摩擦係数ではなく、見かけ上の摩擦係数であり、これをすべり係数と呼んで静止摩擦係数と区別しています。
図4 <静止摩擦係数>
図5 <すべり係数>
N:部材の伸縮により若干変更する
摩擦接合のせん断力については
建築:「鋼構造設計規準」………許容せん断応力度
土木:「道路橋示方書・同解説」………許容力
として規定されている。又支圧接合については
土木:「道路橋示方書・同解説」………許容せん断応力度
として規定されており、以上の基準をまとめると次のようになります。
表2 例)M22径の場合
記号
A:軸断面積(380 )
σy:規格耐力(900N/ )
Ae:ねじ有効断面積(303 )
μ:すべり係数
150:基準耐力( N/ )
ここで摩擦接合の許容せん断応力度とは、摩擦での許容応力を意味しており、高力ボルトが直接せん断を受ける場合に適用されるものではありません。
又、軸せん断力については高力ボルト支圧接合の場合に適用されます。ただし、建築の場合、支圧接合のみでの許容応力の規定はありません。引張外力とせん断力が同時に作用する摩擦接合部では組合せ応力として扱われており、摩擦力による許容せん断力を低減させる式が示されています。
高力ボルトの孔径は、建築、土木では下記の様に区別されます。
1.
建築の場合
高力ボルトの孔径は「建築基準法施行令 第68条2項」によりボルト呼び27㎜未満の場合はボルト呼び径+2.0㎜とし、27㎜以上の場合は+3.0㎜以内と定められています。高力ボルトを用いた接合が、張力(軸力)を導入したボルトの使用により通常の条件下ではすべり等の変形を生じることなく、高い剛性を保持できることを考慮して定められています。
2.
土木の場合
高力ボルトの孔径は「道路橋示方書・同解説」により、摩擦接合に対する孔径は、設計の断面控除が(呼び径+3mm)であるため、許容差0.5㎜を考慮して呼び径+2.5mmと定められています。
高力ボルトの接合部に生じた肌すきに対する処置として、JASS 6では、肌すき量が1㎜以下のときは処理不要とし、1 ㎜を超える肌すきに対してフィラーを挿入するよう規定しています。
フィラーの板厚については特に規定はされていないが、余り薄いものを使用すると、そり、曲がり等を生じやすいので1.6㎜程度以上とすることが望ましいとされています。また、フィラーの枚数についてもできるだけ少ないほうが望ましく、原則として1 枚が適切です。なお、フィラーの表面状態は、両面ともに添え板の摩擦面と同様の状態であることが必要となります。また、フィラーに用いる鋼板の材質は、母材の鋼種によらず400N/ 級材としても差し支えないとされています。
「鋼構造設計規準」や建築基準法施行令第92条の2で与えている高力ボルト摩擦接合面の許容せん断力は、原則としてすべり係数0.45を確保するものとしています。このすべり係数確保の方法として高力ボルト接合設計施工ガイドブックに接合面の処理として下記の3種類について記載されています。
1.自然発錆による場合
摩擦面は孔明け加工後、孔周辺のばりを取り除くとともにグラインダー(ディスクサンダー#24程度)で添接全面の範囲の黒皮を原則として除去した後、屋外に自然放置して発生させた赤錆状態とする。また、摩擦面の確実な接触を期するために、面をへこませないように注意する必要がある。
2.ブラスト処理による場合
摩擦面をショットブラストまたはグリッドブラストにて処理することとし、表面粗さ 50µmRz以上確保することにより、必ずしも赤さびは発生させなくてもよい。
3.薬剤処理の場合
摩擦面処理用の薬剤として①黒皮を除去した後の発錆を促進させるもの、②黒皮のまま塗布して発錆させるものの2タイプある。しかし、②のタイプの薬剤の場合、問題点も多いことよりあまり使用されていない。①のタイプの薬剤の場合、薬剤の役割はあくまでも自然発錆の化学変化を時間的に短縮することであり、黒皮除去の方法や摩擦面の取扱いについての注意事項は、自然発錆の場合と変わらない。
摩擦接合では、摩擦面の状態が接合部のすべり耐力に大きい影響を与えるため黒皮・浮きさび・じんあい・油・塗装・溶接スパッタ・ボルト孔周辺のまくれ・バリ等有害と思われるものは適切な時期に取り除くことが必要です。
一方、添接板外面の塗装は、直接すべり係数に影響を及ぼすことはないが、塗料が摩擦面 に流れ込んで、すべり係数を低下させることがあることや、座金の共まわりやボルトまわりをおこすことがあるため、ボルトの締付け後に塗装を行なうことが望ましいとされています。
近年、工事期間中の部材の発錆防止や完成後の防錆上の見地等から、接合部の摩擦面にも塗装などの表面処理を施すことが土木や建築の一部で行なわれています。
例えば、亜鉛・アルミ合金の溶射や厚膜型無機ジンクリッチペイント塗装などが挙げられますが、いずれの場合も予めすべり試験によって所要のすべり係数を得られることが確認されていることが摩擦面の塗装の前提になっています。
部材の接合に用いるボルト長さは、JIS B 1186による首下長さで表し、締付け長さ(締付けられる部材の総厚さ)に “規格編 表2”に示す長さを加えたものを標準とします。
ボルトの長さは、JIS B 1186の付表1「基準寸法」により5㎜ピッチで規定されており、実務上は算出寸法に最も近いもの、すなわち2 捨3 入又は7捨8入した長さの高力ボルトを選定して下さい。
高力六角ボルト、トルシア形高力ボルトともに上記の基準によりボルト首下長さを選定すれば、長さの過不足による締付け不良や、鉄骨面から突出量が過大となって施工上の安全性や耐火被覆の取り付けに重大な支障となることはありません。
これ以上長いボルトの使用は、ナットにボルトの不完全ねじ部がかからない事を確認した場合には、規定値より5mm長い首下寸法のボルトを選定してもよいことになっています。また、短いボルトの使用は、ナットに対するボルトねじ部のかかりが不完全となり、張力(軸力)の導入によりナットねじ部に変形を生じて、ナット抜けを起こす原因となりますので使用できません。
図6
リラクセーションに関係する接合部の要素としては、座金の有無、ボルト孔のクリアランス、導入張力(軸力)の大きさもあるが、接合部の表面処理によっても変動し、一般的には赤錆では5%程度、塗装10%程度、溶融亜鉛めっき処理で15%程度といわれています。
図7 高力ボルトのリラクセーション (鋼構造接合資料より)
赤錆(減衰率5%程度)
図8 高力ボルトのリラクセーション
塗装(減衰率10%程度)
鉄骨工事技術指針・工事現場施工編によれば、
「溝形鋼やI形鋼のフランジのような互いに平行でない面を締付ける場合は、ボルトに曲げが生じるため、通常1 / 20(約3°)の傾斜を超える場合はこう配付き座金を使用するなどして補うこととしている。
列ボルトのような場合は、下図に示すようにこう配付き板を使用した上に平座金を用いるとよい。ちなみに溝形鋼のフランジの傾斜は5°(1/11)、I形鋼のフランジの傾斜は8°(1/7)である。」とされています。
また、道路橋示方書・同解説でも1/20以上傾斜している場合は、上記と同様の処置をすること、となっています。
図9 こう配付き板
表4 こう配付座金の寸法表
図10
高力ボルト接合設計施工ガイドブックに記載されているすべり試験用標準試験体の寸法は、部材有効断面積に基づく降伏耐力が、すべり係数を0.6、締付け力を標準ボルト張力(軸力)としたときのすべり荷重にほぼ等しくなるように設計されています。
一般的にはこの形状を守れば問題ありませんが、試験機関によっては、引張試験機の能力のほか、チャック巾や板厚にも制限がある場合や、試験体長さが適合しない場合などもあるため、事前によく確認することも必要となります。図11及び表5、6にすべり試験用標準試験体の寸法を示します。
図11 すべり試験用標準試験体の形状・寸法例
表5 標準試験体の寸法等(SN400およびSS400の場合)
表6 標準試験体の寸法等(SN490およびSM490の場合)
すべり試験は本来、摩擦面の状態を確認する試験であり、ボルト呼び径が変わっても、すべり係数が変わるものではありません。
よって、呼び径毎に行う必要性はありませんが、監理者によっては、全呼び径の試験を指示されることがありますので、事前に要領書によって確認することが必要です。
高力ボルト摩擦接合では、被災温度が300℃を超えると導入張力(軸力)が急激に低下するため、300℃を超えると継手として問題となります。なお、ボルト・ナット・座金の機械的性質は、その焼戻し温度を超えると変質します。
水中の構造物でも使用可能ですが、防錆対策を十分に行う必要があります。
トルシア形高力ボルトの使用にあたっては、電動レンチによる機械締めが必要であり、トルシア形高力ボルトおよび電動レンチの形状寸法から、機械締めが困難な箇所あるいは締付け順序が限定されることがあるので、設計時に、あらかじめ使用する電動レンチの形状寸法に合わせて、接合部の締付け順序を考慮してボルト配置を決定する必要があります。
トルシア形高力ボルトの使用が困難な場合は、高力六角ボルトを使用します。この際、同一継手内でもトルシア形高力ボルトと高力六角ボルトとの混用は可能です。フランジとウェブが係る継手部のボルト配置の最小寸法の例を図12に示します。また、締付レンチの形状・寸法をP20~21に図で示します。